ロックンロールに蟀谷を

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被疑者にも、警察官にもストーリー―[書評]半落ち

半落ち』を読了。前から気になってはいたけれど、読もうかどうか、ふんぎりがつかずにいた。とりあえず最初のほうだけ読んでみて、面白そうだったら読もうかな。そう思って試し読みしはじめたが最後、書き出しから即座にぐわわっと話の中に引っ張りこまれ、ついに読了するまで帰してもらえなかった。
緊張感が、途切れない。

 取り調べは一冊の本だ。被疑者はその本の主人公なのだ。彼らは実に様々なストーリーを持っている。しかし、本の中の主人公は本の中から出ることはできない。こちらが本を開くことによって、初めて何かを語れるのだ。彼らは、こちらに向かって涙を求めてくることがある。怒りを焚きつけてくることもある。彼らは語りたがっている。自分の物語を読んでほしいと願っている。こちらは静かにページを捲っていけばいいのだ。彼らは待っている。待ち焦がれている。こちらがページを捲らない限り、彼らは何も語ることができないのだから。


本書は6つの章からなっていて、章が替わるごとに、それまでと全く違う人物が主人公となり、違う人の目線で物語が引き継がれることになる。せっかく感情移入したと思ったところで主人公が別人に替わってしまうという展開に、その瞬間ちょっとしたストレスを感じてしまうのだが、すぐに新たな主人公の動向に新たな興味を抱かせられる。それ故に本を閉じることができない…。
その事件の結末。焦らしに焦らされて、ここまで昂らされた期待を満たすようなオチなどあるのかと、後半は贅沢な不安を抱えながら読み進めたが、それがちゃんと用意されているから恐れ入る。読了感も申し分なかった。
専門的な知識にまで踏み込んで書かれているのに、文章もわかりやすく、中高生にも勧めやすい良書である。文句なしの星5個。