ロックンロールに蟀谷を

ここは墓。現在のブログは https://blog.oika.me/

人は興奮時の自己感情を冷静時に予測することはできない

前回のエントリー「計画性の有無で罪の重さが変わるというのがわからない - ロックンロールに蟀谷を」にid:heis101さんから言及いただいた。多謝。

私たちは「カッとなって一時的に理性を失う人」をどう扱うべきか @heis.blog101.fc2.com

「カッとなっている間の責任能力がどれくらいであるか」についての蓄積された所見はあるのだろうか。
全然違う話になるが、走っているときに横腹がいたくなるのがなぜかというのは、科学的にまだ究明されていないそうである。聴いたのは何年か前の話だから、いまは究明されているかもしれないが、その理由というのが、「走っている最中の人間の腹のなかの状態を調べることが困難だから」というものだ。なるほどと思った。あの痛さは、走るのをやめると同時に消えてしまう。
同じようなことが、「カッとなっている間の責任能力」についても言えるかもしれない。「カッとなった瞬間に頭に測定装置を取り付けて…」というわけにはいかないだろう。カッとなっている間の責任能力が、平常時のそれに比べてどれくらい変化するのかについての科学的な所見は、少なくとも私は知らないし、そういう所見を得るのはとても難しい気がする。

これはすごく大事な観点。
またちょっと話がそれてしまうのだけど、走っている最中の横腹を調べるような実験が『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』で実施されていたのを思い出した。
それは「カッと」じゃなくて、性的興奮がテーマだったんだけど、性犯罪やエイズ、10代の妊娠等の問題を考えるにあたって、平常時に冷静な判断ができる人であっても、性的に興奮している状態では冷静な判断ができなくなるのではないか、という仮説を検証した実験。そう、直球で検証しちゃったわけである(しかも大学で!)。


2001年にカリフォルニア大学バークレー校で行われた実験。
実験参加者は、まず平常時に、自分が性的に興奮している状態のときにどういう思考・行動をするかを予想して、以下のような質問に「はい」か「いいえ」で答えた。

  1. 性的嗜好を訊ねる質問(「ひもで縛られたり、誰かを縛ったりするのを楽しむと思いますか」等)
  2. 不道徳な行為をする可能性を訊ねる質問(「デートの相手がセックスに応じてくれる可能性を高めるためなら、もっと飲むように勧めますか」等)
  3. 無防備なセックスにつながる行為をする可能性を訊ねる質問(「コンドームは性的快感を減らすと思いますか」等)

次に、実験参加者は、個室で、なんというか・・・↓こんな感じw

マイクはロイに、コンピューターに保存された官能的な写真を見ながら、ちょうどいい興奮状態にもっていくよう説明した。ロイは、その状態で前と同じ質問に回答することになる。

「性的に高度に興奮して、ただし、射精にはいたらない状態だ。まあ、もしいたってしまっても、コンピューターは防護してあるから大丈夫」

よーやったわw


それで、とにかく、この実験の結果がすごい。

  • 性的嗜好に関する質問では、変わった性行為をしたくなるという回答が、興奮時は平常時のほぼ2倍(72%増)
  • 不道徳な行為に関する質問では、不道徳な行為に走るだろうという回答が、平常時の2倍以上(136%増)
  • コンドームの使用について、コンドームなしで突っ走るだろうという回答が平常時より25%増。

つまり、実験参加者は、冷静な平常時には、情熱が自分をどこまで変えるかを全く正しく予測することができなかったということだ。
著者は、怒り、飢え、嫉妬などといった、これ以外の感情についても同じような作用があるはずだろうと論じている。確かに容易に想像のつくことだ。


こういうことは認知の領域でもまだあまりメジャーなトピックではなさそうだし、法的分野への適応などなおのこと。責任能力について考えるときにホントは加味する必要があることなのかも。
もちろん、自己の感情を予測できないからといって、責任能力がないことになるのかというのもまた微妙にめんどくさい議論だけど。