あらゆる前提を疑ってかかれ−[書評]十角館の殺人
本格ミステリーの傑作としていつも名前が挙げられる『十角館の殺人』をついに読んだ。すごいねこれ。
ミステリーファンでなくても、いや、ミステリーファンでない人にとってこそ読む価値がある本なのかもしれない。本格ミステリーの底力をまざまざと思い知らされる一冊である。
特に何の予備知識をもたなくても、いきなり読んで驚いてくれればいいのだけど、しいてこれから読む人に忠告しておくとすれば、1点だけ。「前提を疑え」ということしかない。あらゆる前提を疑ってかかれ。
思うにミステリーというのは読み手と書き手のかけひきであって、それは現実の日常でいえばビジネスの交渉であったり、男女のかけひきであったりにそのまま照らし合わせることがある程度可能である。つまり、小説における書き手のミスリードにまんまとミスリードされてしまうということは、もしかしたら悪徳業者の巧妙な契約書にミスリードされてしまうことや、悪女の巧みな誘い文句にミスリードされてしまうことにつながるかもしれないぞ。
まあそんなこじづけをわざわざ考える必要もないといえばない。とにかく純粋に読んで、驚いておくれ。20年も前の作品にここまで見事に度肝をぬかれてしまうと、もうあっぱれとしかいえぬ。
ただただ「読め」では、情報があまりになさすぎかもしれない。目次だけでも載せておこう。
プロローグ
第一章 一日目・島
第二章 一日目・本土
第三章 二日目・島
第四章 二日目・本土
第五章 三日目・島
第六章 三日目・本土
第七章 四日目・島
第八章 四日目・本土
第九章 五日目
第十章 六日目
第十一章 七日目
第十二章 八日目
エピローグ
オレは最初、この目次を見ただけでワクワクしてしまったよ。そしてそのワクワクをはるかに超えたゾクゾクが待っていた。サクサク読める文体だけど、ビクビクしながら読んでおくれ。カクベツのゾクゾクをヤクソクする。